2016年2月4日木曜日

金子光晴『どくろ杯』

金子光晴『どくろ杯』(中公文庫)

普通の文庫サイズなのに、なかなか読むのに時間がかかった本。

子供を親戚に預け、資金の当てもないまま妻と二人で5年(1928~1932)の旅に出るというところからしてすでに時代の違いを感じさせる。
中国まで船で移動しているというところもそうだ。

古い本を読むと、「当時は自由だった」というような記述に出会うが、「放浪」というのは現代の日本ではなかなか成立しないのではないか。

旅の記述は、上海行きから始まり、2か月後にパリで落ち合う約束をして、妻を先に行かせ、自分は資金調達に走るところで終わる。

移動に際しては、次の地点に行く前に、いつもグズグズし、今行かないと行くタイミングを逸するから行くというような感じで、本当に自由である。

途中でいろいろな人と交わり、いろいろなことに巻き込まれながら旅をするというのは本当に人生をかけて旅をしている感じである。

だが、その中に悲壮感が漂っているのも事実である。
決して安全な旅をしているわけではない。
お金はないし、清潔なところにいつもいるわけでもない。
帰国に対する重みも全く違うだろう。

以前読んだ筒井康孝や、永六輔の小説よりもずっと古い時代の話だけれど、もう全く付いていけない分、世界観の違いに全く驚かされるばかりである。

そして、ふと思う。
今は荒れている国々も、この当時はきっとのんびりして穏やかでよい時代だったのだろうなぁ、と。


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