2016年1月18日月曜日

井上ひさし『父と暮らせば』

井上ひさし『父と暮らせば』(新潮文庫)

前書に書いてあったのだが、原爆の話をすると、「いつまでも被害者意識にとらわれていてはいけない。あのころの日本人はアジアにたいしては加害者でもあったのだから」という人が増えてきたという。

こういうことを言う人がいるんだと驚かされるが、前者は前者、後者は後者で別の話で、「だから~である」という文脈になっていないと思う。

「だから被害者意識からではなく、世界五十四億の人間の一人として、あの地獄を知っていながら、「知らないふり」することは、なににもまして罪深いことだと考えるから書くのである。」

この本が描かれた純粋な動機である。
当然のことながら時代が違うのでどうあがいても筆者の体験を理解することはできないが、そこは考えても仕方ないので、深く考えないことにする。

親子の話で、父親は原爆で命を落とし、霊として娘の前に姿を現し、会話もしているのだが、娘は原爆で自分だけ生き延びてしまった罪悪感から逃れられないでいる。
そんな娘を父親は見守り、ときに厳しくフォローする。

話自体はとても短いのだが、詰まっているものが深すぎる。
映画にもなっているが、演じる方も大変だったと思う。
結末はハッピー・エンドだけれど、娘の葛藤と、娘を立ち直させる父親のやりとりがこの作品の見どころだと思う。

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